2013年5月22日

『植物の変異と進化』第2章 Stebbins, Variation and Evolution in Plants, Ch. 2

Variations and Evolution in Plants (Biological)Variations and Evolution in Plants (Biological)
George Stebbins

Columbia Univ Pr 1950-06
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久々の更新。少し前に書きためていたものです。かなり読みにくい日本語になっています……


G. Ledyard Stebbins, Jr., Variation and Evolution in Plants (New York: Columbia University Press, 1950), 42-71
Ch. 2 Examples of Variation Patterns within Species and Genera


2章 種内・属内での変異パターンの例

 進化の個々の要因について考える前に、変異のパターンについて検討しよう。変異のパターンには、①種内のレベル、②種より大きいレベル、という2つのレベルがある。この2つのレベルを分けるのは、変異が連続的または部分的にだけ不連続的であるかそうでないか、隔離機構が鋭い不連続を形作っているかそうでないか、といった点である。

☆生態型の概念
 種内での変異のタイプは規則性をもち、特に生態学的状況への適応との関係性をもつ。そのため、近年では生態型の概念に注目が集まっている。チューレソンによれば、生態型は「生態種や種の遺伝子型の、特定の生息地に対する応答によって生じた産物」であり、ありふれた広く分布する種で特に多くみられるという。Clausen, Keck, and Hiesey(以下C・K・H)もこれを北米で確かめた。多くの研究者は、同種内の変異は生息地の違いと関係していると考えている。ここで、①どのくらいまで異なる生物型が異なる生態型として区別されるのか、②生態型と多型種(あるいはRassenkreise、動物学で発展)の関係は何か、という疑問が生じてくる。生態型がどれほどはっきりしたものかについては議論があるが、植物でも動物と同じように多くの種が、それぞれの生態学的環境に適応した遺伝子型のグループに分けられることは間違いないし、それらは部分的な不連続によって分かたれる。しかし広く分布する種はたいてい相当な数の生態型をもち、連続的になるため別個の生態型を認識することが難しい。

☆生態型的・クライン的変異
 それゆえ、種内の多くの変異はハクスリーが定義した「補助的分類学原理」を用いて「クライン」として描ける。クラインは植物ではよく見られるが、形質の組み合わせを扱い、形質の相関や不連続を探ることを目標にしているシステマティクスの普通の方法では、クラインを明らかにできそうにない。クラインの例は、Langlet、C・K・H、Olmstead、Böcherなどの研究に見られる。
 種内変異をクラインで扱う方法は、レースや亜種といった概念を用いる方法に比べて、個々の形質を扱って選択などの原因を分析できる点や、連続的な量的形質を扱える点などが長所である反面、広い調査を行った後でないとクラインが認識できない点、選択は形質の組み合わせにかかるので勾配を強調しすぎると変異の全体像を見失う点などの短所もある。
 クラインと亜種の関係性はクラインの形質次第である。クラインが連続的であればそのクラインを形成する形質は区分の基礎となることができないが、クラインがある地域で急勾配となるようなタイプであればできる。連続的でむらのない気候・生育環境ではクライン的な生態型が優勢であるが、不連続的で多様な気候・生育環境は分化を促しはっきり区分できる生態型が形成される。チューレソンが指摘したように、他家受粉、特に温帯の風媒受粉の植物では、連続的な遺伝的変異が見られる。交配集団が大きく、巨大な遺伝的変異の貯蓄の中から選択が行われるので、植物はその地域の環境に密接に適応し、環境の連続・不連続性をはっきり反映する。一方、近くの個体との受粉、特に自家受粉を多く行う植物では、コロニー内で一体性、コロニー間でははっきりとした違いを示す生態型となる傾向がある。クラインと生態型は相互に排他的な概念なのではなく、同じ問題にアプローチする異なる方法であるといえる。クライン的変異は適応を決定する形質に存在し、それゆえ生態型の基礎を形成することもあるが、特に明らかな適応価のない形質にも見られる。対応して、生態型的変異は複数のクラインによって形成されることがある。Gregorが強調したように、どちらのアプローチも種内の変異を理解するのに助けとなる。

☆生態型と亜種
 生態型の概念と、多型種(Rassenkreise)は2つの点で異なる。まず、①亜種はおもに見分けがつく違いに基づくが、生態型は環境への応答に基づいて区別され、はっきりした形態上の違いをもたないことがある。C・K・Hによると、亜種は1つまたはいくつかの生態型で構成されている。生態型は、環境による変形のために、同じ環境に移さないと判別できないことがある。環境による変形は動物では植物より少ないので、動物学者たちはシステマティクスの術語以外に遺伝生態学のタームを使う必要がなかった。次に、②生態型は生態学敵、適応的概念だが、亜種は形態学的、地理的、歴史的な概念である。地理的地域がそれぞれ違った生態学的状況をもつ限り、生態型は亜種に等しい。一つの亜種は一つの共通の起源を持ち地理的に連続して分布するが、生態型はそうとは限らない(チューレソンの調査地図)。生態型概念の定義については議論も多い。

☆種や属のレベルでの変異
 種のレベルを含む変異では、集団や集団システムの間に大きな生理学的/遺伝学的障壁をもち、変異のパターンはその障壁の大きさや集団の多様性の大きさに依存する。何人かの植物学者たちは、種や種のグループを隔離機構の発達度で特徴づける術語を作ってきた。チューレソンのecospeciesは稔性や活力を損なわずに交配できるシステムで、ほぼ分類学の種に一致する。チューレソンのcenospeciesはなんとか稔性を残して交配できる範囲のecospeciesから構成されている。Danserのcompariumは、直接あるいは仲介を通して交配できる範囲のcenospeciesから成り、これは属の大きさに近い。集団内の遺伝的多様性、不連続性は集団次第で様々である。

☆キンポウゲ科内でのパターン
☆キジムシロ属内での変異パターン
☆カシ属
☆キク科内でのパターン
☆イネ科
種の境界は、標本の研究だけではなく、交配の実験を体系的に行った後でないとわからない。これらのパートでは、実際にいくつかの科や属について、先行研究を数多く引用しながら、また、ここまでで紹介した概念等を用いながら考察を行う。

☆一般的結論
 ここで調査したうち、4つの属・亜属の中では、均質か、変異があっても多型ではない種が大部分であった。しかしいくらかの種は地理的に隔てられた亜種をもっていた。またおおおよそこれらの属では、遺伝的多様性は同一の環境で育てた場合に区別できる変異の形で存在するので、これらはチューレソンの意味での生態型であるが、地理的な広がりの中で形態的な違いを区別できるわけではないので亜種ではない。一般に認められた種は、生殖的隔離の障壁によって常に隔てられており、これら障壁は様々であるが、F1世代の交配における花粉や種子の部分的または完全な不稔がもっとも一般的である。
 残りの6つの属は、多型種と均質な種を同程度の割合でもっている。温和な地域の木の属は、種が広く分布しており多型であるだけでなく、分布地域がほぼ完全に一致している種のあいだで稔性のあるF1世代を形成するという特徴があり、最も発達している隔離機構は生態学的なものだ。
 これらの例からいえることは、あるグループで発展した、種に関する基準を、無批判に他のグループに当てはめてはいけないということである。グループ間で生活の様態が大きく異なっている場合はなおさらであり、このことは特に植物学者によって認められた種を動物学者が再解釈する試みや、植物学者が彼らの種の基準を動物に用いようとする試みについていえる。進化やシステマティクスの一般的原理は、可能な限り異なったグループの植物や動物についての幅広い知識に基づかなければいけない。