2014年12月10日

自然主義的誤謬の歴史を追う Milam, “Introduction” 【Isis, Focus:自然主義的誤謬】

Erika Lorraine Milam, “Introduction,” Isis 105 (2014): 564–568.

Isisの2014年第3号では、自然主義的誤謬をテーマにした特集(Focus)が組まれています。ここでは特集のイントロダクションを紹介します。


 「自然主義的誤謬」という言葉は、G. E. ムーアによって1903年に生み出された。以来、20世紀の学者たちはこの言葉に訴えかけることで自然と道徳の境界線を監視してきた。自然と道徳をそれぞれ完全に独立した領域とみなすことはこうして成功したのである。しかしこのシンプルな言葉は、絡み合う概念(natureとnurture、biologyとculture、bodyとsoul、contingencyとdesignなど)のもつれを様々なやり方でほどこうとしてきた古代ギリシャ以来の歴史を覆い隠してしまう。

 科学史家たちはこれまでに、様々な文化が自然に訴えかけることによって暗黙の社会規範を正当化してきたことを明らかにしてきた。しかし、こういった自然主義的推論に対して警鐘も鳴らされてきたことは、歴史家たちの注目を浴びてこなかった。そこで本特集の各論文は、自然主義的推論に対して疑問が呈された歴史的事例を検証する。これは、自然主義自体の存続について考察する新しい視点を与えるためである。

 現在では「自然主義的誤謬」の一語にまとめられてしまうものを歴史的に追いかけることで、本特集の論文は、そのような自然主義が必然的に誤っているという前提に疑問を投げかける。また本特集は、この言葉自体が様々な政治的立場の人々に用いられてきたことも示している。本特集の論文は、自然主義的誤謬を奇妙で、頑固で、様々な形をもつものとして特徴づけているのである。