Martin J. S. Rudwick, “Caricature as a Source for the History of Science: De la Beche’s Anti-Lyellian Sketches of 1831,” in Lyell and Darwin, Geologists: Studies in the Earth Sciences in the Age of Reform (Aldershot: Ashgate, 2005).
※ 1975年発表。
風刺画を分析することの重要性は歴史学一般では広く認められてきたが、科学史家たちは十分な注意を払ってこなかった。
この論文で取り上げるのは、地質学者デ・ラ・ビーチ(1796–1855)が描いた、“Awful
Changes”
と題された風刺画(図1)である。この風刺画は、バックランドの地質学講義を題材にしていると思われてきた。しかしこの解釈では、バックランドの講義風景を描いた絵のなかにもこの絵が写り込んでいるという事実をうまく説明できない。そこでこの論文では、この絵はバックランドではなくライエルに対する風刺であるという解釈を示したい。
この解釈の根拠となるのは、デ・ラ・ビーチが自身のノートに描きためていたいくつかのラフスケッチ的な風刺画である。前後に描かれたスケッチなどから判断して、これらはライエルの『地質学原理』第1巻の出版から1年以内に描かれたと考えられる。これらのラフスケッチは、“Awful
Changes” を他の地質学者たちに回すまえに、予備的にさまざまなテーマを試していたものだと推測される。
図3~5のラフスケッチはいずれも、ライエルと思われる人物が他人に色眼鏡や眼帯をつけさせるというテーマで描かれており、ライエルによる地質の観察は理論的前提によって歪められていることを示唆している。図6~7は、ライエルが定向主義的な気候変動の解釈に反対して、大陸の配置が極めて長い時間をかけて変化してきたと主張していたことに対する風刺となっている。図8も、ライエルが地質学的説明のために長大な年月を持ち出すことへの皮肉となっている。図9は、ライエルが沖積層だけでなく洪積層をも現在因だけで説明しようとすることを風刺している。図10は、ロンドンの地質学会の様子を風刺的に描いたものと推測されるが、どのキャラクターが誰に当たるのか、解釈が難しい。そして図12は、“Awful
Changes” の下描きとなっている。
このような一連のラフスケッチの中から登場してきた “Awful Changes” は、ライエルの提唱する地史が循環的なモデルであったことに対する風刺であると考えられる。
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