2013年1月20日

水島司『グローバル・ヒストリー入門』

水島司『グローバル・ヒストリー入門』山川出版、2010年

グローバル・ヒストリーが従来の世界史と異なる点として、5つの特徴が挙げられる。第一に、あつかう時間が長い。第二に、対象となるテーマや空間が広い。第三に、ヨーロッパ世界の歴史や、近代以降の歴史が相対化されている。第四に、異なる諸地域間の相互連関が重視される。第五に、あつかわれている対象が、疫病、環境、人口、生活水準など、従来の歴史学では取り扱われることの少なかったものであることが多い。

従来のヨーロッパ中心主義の歴史研究では、ヨーロッパとアジアを先進性と後進性という二分法で認識することがしばしばなされてきた。こういった研究におけるアジア理解は、アジア史研究が明らかにしてきた史実とは無縁なステレオタイプな認識であるとして批判を受けた。また二十世紀半ばからの東アジアの高い経済成長も影響し、ジョーンズ『経済成長の世界史』、ポメランツ『大いなる分岐――中国、ヨーロッパと近代世界経済の成立』、フランク『リオリエント――アジア時代のグローバル・エコノミー』など、アジアの発展を評価する研究が活発になっている。また、速水融はヨーロッパとアジアとでは発展の性格が根本的に異なるとして、前者の産業革命(industrial revolution)に対して、後者は勤勉革命(industrious revolution)であると論じた。

環境に関わる分野では、グローバル・ヒストリーの展開に大きな影響を与えた、マクニール『疫病と世界史』などの疫病に関連する研究がある。ダイアモンド『銃・病原菌・鉄――1万3000年にわたる謎』など、自然科学者からの人類史へのアプローチもある。ウィリアムス『森林枯渇――先史から地球の危機まで』、リチャーズ『限りのないフロンティア――近世環境史』なども有名である。

移動と交易に関する分野の研究も盛んであり、作物、商品連鎖、ファッション、世界市場などのテーマが、ときには統計を多く用いて論じられてきた。さまざまな地域がどのようなまとまりをもってどのようにつながっていたかという観点から、世界史の全体的な把握を可能にする世界システム論もあり、特に海域世界については代表的な研究がいくつもなされている。

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