2017年2月14日

「メンデルは孤独な遺伝学の先駆者」というのは神話 Kampourakis, “Myth 16”

Kostas Kampourakis, “Myth 16: That Gregor Mendel Was a Lonely Pioneer of Genetics, Being ahead of His Time,” in Newton’s Apple and Other Myths about Science, eds. Ronald L. Numbers and Kostas Kampourakis (Cambridge, MA: Harvard University Press), 129–138.

神話16「グレゴール・メンデルは時代を先取りした、孤独な遺伝学の先駆者だった」

現代の遺伝学の知識をもっている我々は、しばしばメンデルの論文に過剰なものを読み込んでしまう。メンデルは遺伝因子についてではなく、形質について表記しているという点に注意する必要がある。厳密に言えば、メンデルは「分離の法則」も「独立の法則」も発見していない。さらに言えば、遺伝が粒子的であることも発見していない。

メンデルは遺伝の一般理論ではなく、異種交雑で新種は生まれるのかという問題に取り組んでいた。当時、遺伝のメカニズムは生物学の中心的な問題の一つであり、ダーウィン、スペンサー、ゴルトン、ネーゲリ、ヴァイスマン、ド・フリースといった人々が取り組んでいたが、メンデルはこのようなグループの外部にいた。実際、メンデルの論文に「遺伝」という言葉は一度もあらわれていない。

1900年以降におけるメンデル論文の急速な受容は、新しい概念的枠組みが発見された結果である。ゴルトンとヴァイスマンがハードな遺伝という考え方をつくり上げており、また細胞学者たちが形質の発現に関係する粒子が細胞内にあるという見方を支持する証拠を提供していた。

メンデルを英雄視する見方は、実際の歴史を歪めているだけでなく、科学が一般的にどのようになされるかという理解をも歪めている。
また、メンデルの実験はブルノの農業的・社会経済的文脈と関係していた。科学的な問いは、理論的というよりも経済的・技術的な要求から生じることも多いのである。

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